一般のお客様が目にする華やかなショップの棚やECサイトの画像。その裏側には、一般人が足を踏み入れることのできない「ショールーム」という戦場が存在します。ミラノのVia Montenapoleoneの路地裏や、ブレラ地区のクラシカルな洋館の中に佇む巨大なショールーム。そこでは世界中から集まったトップバイヤーたちが、ブランドのセールスディレクターと血の滲むような交渉を繰り広げています。今回は、普段絶対に明かされることのない海外訂貨会(受注会)の裏側をお見せします。
展示会(展示受注会)の1日は過酷そのものです。朝9時のアポイントメントから夜8時まで、バイヤーは1日に5本から8本のショールームを分刻みのスケジュールで回ります。1回の商談時間は約1時間から1時間半。その限られた時間内に、数百点に及ぶサンプルの中から自店舗のターゲット顧客に合う商品をピックアップし、色展開、素材(生地)のバリエーション、サイズバランスを確認しなければなりません。
ここで求められるのは、瞬時に全体のバイイングバランスを計算する頭脳です。単に「良い服」を選ぶだけではプロとは言えません。「このジャケットにはどのパンツを合わせるか」「この色展開で何サイズを何着ずつ取れば消化率90%を達成できるか」「合計金額が提示された最低発注金額(Minimum Order Quantity / MOQ)を超えているか」を、電卓を叩きながら頭の中で立体的に組み立てていきます。
さらに、展示会の醍醐味であり最大の難所が「別注交渉」や「限定商品の割り当て(アロケーション)」です。世界的に人気が集中する限定アイテムや人気の高いレザーバッグは、いくらお金を積んでも手に入るわけではありません。ブランド側も「誰に売るか」を厳しく選定します。ここでバイヤーの信用、過去の販売実績、そして担当者との個人的な人間関係(コネクション)がモノを言います。「日本の我がショップで展開すれば、ブランドの価値を最も高める形で顧客に届けられる」というロジックを、情熱を持って英語やイタリア語でネゴシエーションするのです。
時差ボケと疲労で意識が朦朧とする中、数千万円の決断を数分で下していくスリルとプレッシャー。ショールームを出た後のミラノの冷たい空気を吸い込んだ瞬間、ようやく安堵の溜息が漏れます。私たちが命がけで勝ち取ってきたアイテムたちが日本に届き、お客様の手に渡った瞬間の笑顔を見るために、私たちは今日も世界中の展示会で戦い続けています。